黒部峡谷の山を歩く   (祖母谷~白馬三山~唐松岳周回コース)

       2016年7月28日(木)~8月1日(月)

        秋葉信夫、髙泉修


                   祖母谷温泉

  かねてより心に決めていた「祖母谷、白馬三山、唐松岳の周回コース」の山旅を実行すべく心強いパートナーである秋葉さんと福島を発った。
 初日は宇奈月温泉までとし、駅前の駐車場に幕営し、明日からの楽しき山行を祈念し祝杯を挙げた。

  明くる29日朝一番の黒部峡谷鉄道で欅平に向かう。梅雨明け宣言直後ということもあり、観光客は少なく、祖母谷から白馬岳に登る者は、ましてや少ない。
 梅雨明けの強い朝日を浴び、祖母谷温泉には名剣温泉を経て30分で到着。

  祖母谷温泉の鉄橋を渡ったところに清水尾根の標識があり、右手の工事用の林道を登るのだが「通行禁止」と記されており、自己責任で行けと言うことらしい。
 20分ほど行くと細い登山道入口に出会う。そこからが急登の始まりであった。
 北アルプスとは思えないあまり整備されていない草いきれの山道を登って行く。
  
  ブナの樹林帯に入っても風はなく暑い。百貫沢を過ぎると本日の目玉とも言うべき百貫の大下りの急登が待っている。
 暑さの中を喘ぎながら登り、やがて幾つかのアップダウンを繰り返すと不帰岳避難小屋に到着する。
 質素だが明るく堅牢な作りの小屋である。

  先着の単独行者が2人荷を広げていた。小屋の前には冷たい湧水の水場があり何よりも有り難い。
 荷を広げるのももどかしく冷たいバーボンの水割りを渇いた喉に流し込む。 秋葉さんは芋焼酎の水割りだ。
 冷た いバーボンは喉に、身体にしみ込むように入っていく。今日のコースは小さな沢も含め幾つかあり、水には困らない。
 また、距離そして高度も含め、山行第1日目の行程としては適当なものであった。
 
 <宇奈月温泉(7:32)⇒欅平(8:47~9:00)→祖母谷温泉(9:50)→不帰岳避難小屋(16:00)>
 
   7月30日(土)
  朝、食事もとらず早立ちする。不帰岳の南を巻くように尾根に出ると緩い登りとなる。やがて高山植物が咲く広い尾根が現れ、
 可憐な、清楚な、美しい花々を楽しむ。ピンクのアヅマギク、カライトソウ、ハクサンフ ウロ、黄色のミヤマキンポウゲ、ウサギギクなど。
 清水尾根で「労多くして楽しみ多し」の標識を見る。得心。

   

   コマクサ(清水岳付近で)                  タカネマツムシソウ(裏旭岳付近)

  清水岳(しょうずだけ)直下からは雪はほぼ消え高山植物が咲き乱れる雲上のお花畑というところ。
 ザレ場にはコマクサがちょうど見頃と咲いている。またガスの切れ間から剣岳の勇姿が覗かせている。

  北アルプスの主稜線から外れたこのコースは登山者も少なく、ゆったりと眺望そして今を盛りと咲き競うお花畑を楽しめる。
 主稜線に出ると一変し大勢の登山者。色とりどりの登山者スタイル。ハッとするような鮮やかなショートパンツの山ガールなども。

  空身で白馬岳山頂へ。何度か白馬岳には来たが、初めての穏やかな山頂。白馬山荘でラーメンの昼食を頼みたっぷり水分も補給し、
 本日の目標地である天狗山荘へ向け出立。杓子岳はピークを踏まず、巻き道を取り、鑓ヶ岳をめざす。
 白馬岳から鑓ヶ岳までは東面が激しく切れており黒部峡谷側とは対照的な景観が続いている。
  鑓ヶ岳山頂あたりから時折硫黄泉のにおいがしてくる。白馬鑓温泉のにおいが風に運ばれてくるのであろう。

  鑓温泉への道を左に分けるところに来ると天狗山荘の赤い屋根が大きく見えてくる。2774mのピークの東面に巨大な雪田が残り、
 山荘のそして幕営地の水源として利用されている。雪解けの冷たい水にはジュース類が冷やされていた。今宵は贅沢に夕食付きの山小屋泊まり。
 小屋には乾燥室があり、早速着替え汗や雨に濡れた衣服を乾かす。

 夕食まで時間があり、早速食堂にて生ビールで渇きを癒す。夕食は名物の鍋料理があり、
  日本酒を美味しくいただく。食事付きの小屋泊まりは楽で快適だ。ゆったりとそしてぐっすり眠ることができた。

<不帰岳避難小屋(5:00)→清水岳(7:30)→白馬岳(10:35)→白馬山荘(12:00)→天狗山荘(15:00)>


 7月31日(日)
   
          不帰ノ劍                唐松岳山頂にて 

 ハードな1日となるため、ヘッドランプをつけ出発。天狗の頭まではゆったりとした登りでまだ目覚めぬ身体には程良い。
 天狗の大下りはガレ場の不安定な下りだ。不覚にもストックに頼りすぎストックのピックが滑り、転倒しガレ場とハイマツの上を転げ落ちてしまった。
 幸い大事には至らず、右手の傷は浅く秋葉さんの適切な手当で帰宅後も病院にも行かずに済んだ。

  ただこの時、腰を強く捻りその後の山行のペースを落とすことになってしまった。
 以前「ガレ場の下りではストックに頼りすぎると危険なので自分の足でおりるように」
 と後輩に話していたにもかかわらず、私も歳をとるとストックに頼る傾向が強くなっていたのだ。猛省!この後は慎重に、慎重にと下り、そして登った。

  不帰キレットを経て、不帰ノ劍一峰そして二峰へ。核心部の二峰北峰、南峰へは鎖場やはしごが連続する悪場で、気が抜けない。
 三峰まで来ると緊張感がほどけ、来し方を振り返る余裕が出てくる。そして北アルプスの整備された主稜線の道を進み、唐松岳に。
 唐松岳からは白馬三山の山、不帰ノ劍がガスの晴れ間に。(見える筈であった)。不帰(かえらず)ノ(の)劍(けん)さすがにその名の通りの厳しい頂だ。
 唐松山荘で餓鬼岳避難小屋そして祖母谷までの情報を得て、山荘脇のキャンプ場を通る急斜面、そして足場の悪い唐松岳の支稜線の山腹を一気に下る。
 この登山道は最近草刈りしたばかりであったが、ただ下るだけでも大変な山道を整備する人達の苦労は如何ばかりなものかと頭が下がる思いであった。

  餓鬼山避難小屋までの唯一の水場大黒鉱山跡まではひたすら下るだけ。鉱山後から10分ほど下ると餓鬼谷の広い河原に降り立つことができる。
 ここで今宵と明朝の水を確保すべく、約4Lの水を汲む。昼食を取り、避難小屋へ。標高差約300mの餓鬼山までの登りが殊の外きつく長かった。
 山頂かと思うとその奥にそして更にその奥にという具合で、中々とどかず、小屋まで3時間半を要した。

  この避難小屋も不帰岳避難小屋と同様の作りであったが、水場がないのが決定的な違いである。
 水と食料はたっぷりあり、山での最後の晩餐となるので主食の焼きそば、様々な酒のつまみ、そして限りあるバーボンと芋焼酎で楽しき宴の時を過ごす。

 <天狗山荘(4:40)→不帰ノ劍一峰(6:50)→二峰南峰(8:30)→唐松岳(9:20)→唐松岳山荘(10:00)→大黒鉱山跡(12:10~13:00)→餓鬼山(15:30)→餓鬼山避難小屋(16:30) >

   8月1日(月)
  いよいよ山行最後の日。ガスがかかっているが、晴天の気配。
 小屋を掃除し気持ちよく出発。餓鬼の田圃の手前でポシェットを忘れたことに気づき戻るが見つからず。
 小銭、ナイフ、地図、薬、山手帳などが入っていたが財布や免許証は別にしていたので諦めることとした。これも老化の兆候か。
 餓鬼の田圃は想像していた美しい田代の湿原ではなく、大きな楕円形の湿原でスゲやイグサなどで覆われているだけであった。

  あとは深い樹林帯の中を尾根伝いに、そして南越沢に沿ってひたすら下る。途中ロープや鎖、梯子などもあり時に慎重に下る。
 沢音が大きくなった頃広い林道に出るとまもなく祖母谷温泉だ。祖母谷温泉鉄橋の手前で登山道は終了。あとは一部舗装の車道を欅平へ。
 欅平駅で無事下山できたことに感謝して、ビールで乾杯。宇奈月に戻り、風呂で汗を流し、福島に戻る。

  <餓鬼山避難小屋(5:00)→餓鬼の田圃(5:30~6:15)→祖母谷温泉(8:20)→欅平(8:50)⇒宇奈月⇒黒部市⇒猪苗代⇒福島・いわき>
                      (髙泉 記)